特別展「回天」へのいざない②

7月 15th, 2012

 徳山港を船で出発すると、点在する小島の間を縫うように、結構な大きさの船がそれこそ交通ルールを遵守して整然と航行している光景に出会います。瀬戸内では目の前にある海を船で行き来するのが昔から当たり前のことだった、ということを教えられるようです。 

 馬島港に到着し回天記念館へ向かうとまもなく坂が見えてきます。その坂は向かって右手にあたるのですが、左手には海が広がっています。

 整備された堤をトントンと駆け上がると、そこには青い海が見えます。瀬戸内の波は穏やかと聞いていましたが、本当に穏やかな波が幾重にも打ち寄せてきます。「見通しがきくときは、国東半島(大分県)まで見える」そう回天記念館・松本館長に教えていただきました。国東半島の南側には大神回天基地がありました。遠い昔、目の前の海が訓練する回天を包んでいたのだと思い、遙か遠くに思いが飛ぶようでした。

 そして目は、海中に突き出た構造物に移ります。これが大津島にあった魚雷発射試験場であり、訓練する回天の発着場でした。

 ここへ行くためにはトンネルを通って行きます。かつて、敷かれたレ-ルの上を訓練用の回天が発着場まで運ばれていった通り道です。私にはそれほど不気味に感じるところのないトンネルでした。ただ、発着場に近づき幅が広がったところで、現在は回天の説明パネルが展示してある照明付きの明るい場所に差しかかったとき、いきなり案内の音声が高らかに流れ始めました。平日の昼間ですから島にそれほどの来客はありませんでした。私は帰りの船の時刻を気にしながら、同時になにかしみじみした気持ちで1人歩いていましたので、正しく働いたセンサーに対して、本当に久しぶりに心からびっくりしました。私は驚きの声をトンネルに刻んできました。アテンションプリーズ…。

 

 発着場には危険な箇所に金網がかけられているので特に心配はありません。しかし、金網越しに覗ける魚雷発射のための「コンクリート洞窟」とも言うべきところには、一見穏やかそうだった波が打ち付け、砕ける音が響き渡り、海・水がもつエネルギーの恐ろしさを私に伝えてきました。海と渡り合った海軍の人たちの度胸に恐れ入り、またどうせならその気力こそ平和な社会で発揮したいものだと思いました。

 発着場には、回天を上げ下ろししたクレーン跡などが残り遺跡としても一見の価値ありですが、そこから眺める大津島、馬島の円く穏やかな風情、そして九州は国東半島まで届く大海原の明るさがたいへん魅力的です。

 

 再びトンネルを歩き、坂を上り詰めると回天記念館に到着します。私が4月に訪問したときは、道中、ソメイヨシノと山桜が混在する桜のトンネルを抜けていくこととなりました。

 

 回天記念館に入館する前に、右手にある「回天碑」の前で哀悼の意を表しました。そのすぐ左には回天一型の模型があり、その向こうには徳山の町へと続く青い海が穏やかに光っています。