「Reyte-予科練生が見たレイテ沖海戦」②

10月 19th, 2014

 私が、まあ将来どういう道へ進むか分からんけれども、通信へ行って信号術、暗号術を勉強してこいと上からの命令で入ったのが海軍通信学校の58期なんです。

 モールス信号、トンツートンツーですね、あれを覚えさせられたんですよ。モールス信号というのはご存じの通り、アメリカのモールス博士ですかね、この方がこの基礎を作ったというふうに聞いています。今もモールス符号というのは、通信関係あるいは航海商船関係で使ってますね。

美保-通信術送受信訓練

 特に、軍隊ではこのモールス信号というのが大変貴重な連絡、情報手段になっていましてね。モールス信号というのは、英字がAからX、Y、Zまで26文字ですか。数字が0から9まで10文字ですね。それから記号がありますね、濁点とか半濁点とか、あるいは括弧であるとか、括弧も上向き括弧、下向き括弧、かぎの括弧とかね。あと和文としてはいろは何から、おしまいの「ん」まで、えー48文字、これ全部で95文字あるんですよ。これみんなモールス化されているわけです。

 このモールス符号を一週間で覚えろっちゅうんですよ。これには参ったですね。えー。みんなそれこそ寝ずに勉強しましたよ。隣の奴ももう就寝時間になっているのに寝ねーでね、トンツートンツー、トツー、いろはのは、にツートトト、とかね。一生懸命やってる、あーこれは負けちゃいらんねーと思ってね。それが全くまー、不思議に、若かったしね、16歳ですから、覚えもよかったんでしょう、一週間十日くらいでみんな覚えましたよ。全部で95文字あったんですから。今でもびっくりしますよ。今やれなんつったってとても出来ません。

砲術学校

 これが終わってからね、砲術学校へ行ったんですよ、砲術学校の92期。砲術関係というのはどこの船へ行っても、どこの軍艦へ乗っても、あるいは陸上勤務になってもですね、銃器というのは使いますので。あの頃はね、歩兵銃、93式、93式歩兵銃かな。それから一式銃っていうのがあった、イタリア製ですね。それから機関銃、これは20ミリ機関銃から17.7から、それから高角砲、飛行機を撃つあれですね、軍艦に乗ると必ず、駆逐艦以上は高角砲を積んでますから、それから機関銃も積んでますので、まー当時一等巡洋艦で改装した私が乗った愛宕なんていうやつは100挺くらい積んでましたよ、機関銃をね。

 それで、高角砲なんていうのは飛行機を専門に撃つんですけど、2連装が1、2、3、4、4基8門ですね、8門ありまして、まあこれらの操作、それから射撃訓練、こういったものを砲術学校で一ヶ月ほどやったんで。

奈良-陸戦術射撃訓練

 それから回されたところがですね、山口県の宇部空です。航空隊へ行く前にですね、たぶん海兵団で希望を書かされたような気もするんですよ、飛行機に乗りたいという意思のね。それで砲術学校を終わるとすぐ、山口県の宇部航空隊へ行けと。宇部ってどこにあんですか、山口県だって言うんだよ、それすら分かんなかったですよ。

 ここへ行ったときにですね、93式の水上中間練習機とうのが与えられまして、それで実際に初めて飛行機にさわった。これが2ヶ月ほど、ここでは操縦、偵察、観測それから整備、この4つを重点的にやらされまして、やっている間に教官がいろいろ見てんですね、あーこいつは操縦に適しているとか、こいつは偵察だとか、観測だ、整備関係だと。この宇部空にいるときに振り分けられちゃったんですよ。

 93式練習機ですね、結構操縦もやったんですが、どうもそのテストには落っこったみたいで。それで観測を重点的にやれと。簡単ではないんですね観測と言っても。飛び出していって、まずどこへ行くかと、後でもお話ししますけど、命令を受けて軍艦であればカタパルトから飛び出していきますんでね、それが遠いか近いか、あるいは1日以上かかるか、そういったときの燃料はどこで補給するか、あるいは食料もですね、食料がだいたいまあ2、3日分の食料は積んでいくんです。燃料は、ガソリン満タンです。満タンにして飛び出していくわけですけど。その観測を重点的にやれと命じられました。

300px-93siki-suijou-chuukan-rensyuuki

 観測兵というのはね、観測ばかりじゃないんですね。基地との、あるいは旗艦との通信ですね。これでモールスが生かされる。我、今、どこどこ、北緯何度、経度何度の洋上を今どの方向に進んでいるとかね、そういう連絡はみんな暗号です。その暗号というのは暗号書というのがあってね、表紙が真っ赤になってて、この表紙の背中に鉛が入ってるんですよ。どんな大きな暗号書でも小さいやつでも。何のためにそうなってるかというと、もしその船が沈没したとき、敵の潜水夫が潜っていってこの暗号書を引き上げられると、暗号文が全部解読されちゃうわけです。ですから海底深くに暗号書が沈むように鉛が仕込まれていたんですね。暗号書には2種類あって、偶数日に使うものと奇数日に使うものとに分かれてまして、厚いやつには厚いのがあるし、薄いのはもっとペラッとしたのもあるしですね、ま、2種類の暗号書を使ってました。

 飛んでいる時に、これは暗号でやらなくちゃならんというのは機長の命令ですね。機長から我こうこうだという文書が来ますので、観測員は後ろにつかまって、パイロットは、機長は前にいますから手渡しで来るんです。それを受け取ってその文書によって暗号書を引いて、暗号を引いて、それから基地に送るわけです。あんまり時間がかかったんじゃね、それこそ10分も20分もかかったんじゃ、これはもう仕事にならないわけです。ほんの何秒です。何秒の戦いですよね。で暗号文を作って、基地に送信するわけです。

 送信するのは電鍵(でんけん)と言いましてね。プラスとマイナスによって接点が出て、トンとツーが出るんです。トンはポッと、ツーはツッと、これは3分の1ですから、トンの3分の1がツーだと。ツートントンツー、だから有名なトラトラなんてありますね、トントンツートントン、トントンツートントン、トントントン、これはトラですね。こういうふうになってます。これは通信学校出た連中がみんな相手にいますので、この連中がそれを受信してすぐに司令、あるいは責任者のところへ届けるわけです。こういう観測関係、私も観測を重点的にやりましたんで、これがまあ2ヶ月ほどかかりましたね。