企画展「甲飛14期生」⑥

3月 20th, 2013

 急に暖かくなりました。

 梅が慌てて咲いたかと思うと、強い風が吹き荒れる日には忙しなく今年の花を散らせていく様子を見て、春の到来を落ち着いて迎えている私たちの心境とは言えないようにも感じられます。

 桜の開花は例年より1週間ほど早まっているとのことです。可愛い新入学生のためにも、桜にもう少し足踏みをお願いしたいような気持ちです。

 これも異常気象の影響なのでしょうが、しかし、暖かくなってくると「異常」という言葉を使いたくない気もします。待ち望んだ春です、よいことがたくさんあるといいですね。

 

 さて、昨年11月から開催してきた企画展「甲飛14期生~特攻が始まった年の入隊者たち~」の会期もあと10日ほどとなりました。これまでにも多くの方にご来館いただきましたが、気の早い今年の桜を見がてら、どうぞご観覧いただきたいと思います。

 今回は、進木亮(しんのき あきら) 氏 (甲飛14期・特殊潜行艇)をご紹介します。 

 

 昭和19年4月美保海軍航空隊へ第14期飛行予科練習生として入隊、以来1年が経過した頃、昭和20年5月中旬、わが分隊から30数名が転属不明、特殊兵器搭乗要員として選抜を受け、甲飛第14期第1次特攻隊要員に内定した。即日特攻隊は結成された。

 5月29日卒業式、そして雨天体操場で壮行会、恩賜の御神酒、その他昆布などが揃ったメニューのご馳走がでた。この日、ようやく転出先は大竹潜水学校「柳井分校」と知らされた。お世話になった分隊士、班長、班員に最後の挨拶を交わし、父から贈られた日本刀片手に衣嚢を担ぎ隊門に整列した。

 同期生、後輩15期生の激励見送りをうけ、互いに帽振れのなか思い出の美保空を後にした。大篠津駅で軍用臨時列車に乗車、集う村の方々の見送りに紛れて両親を見受けたときは驚きと改めて悲壮感を覚えた。そして遠くからこれが最後の決別と覚悟の敬礼を送った。

(中略)

 山口県熊毛郡佐賀村字田名(現在の平生町)に大竹潜水学校柳井分校(その後柳井潜水学校び改名)があった。瀬戸内海に突き出た「阿多閏半島」という東西約12キロ幅約300メ-トル程度のなまこ型の小さな半島がある。この半島全体が海軍用地で、手前が潜水学校、西南に「回天」特別攻撃隊の平生基地があった。

 われわれは、柳井駅で衣嚢を輸送車に積み込み、初夏を思わせる暑さのなか、8キロの道程を行軍、昼前学校に到着した。直ちに兵舎の割り当てをうけ教官に出迎えられ、注意事項伝達の後、予科練第一種軍装を返納して、五ツ釦の下士官服が支給された。下士官帽子帽章と二等飛行兵曹袖章をつける。事業服はなく、略服として薄褐色の五ツ釦、略帽は事業服と同色で一本線の下士官帽が支給されたが、下士官軍服は古着であった。

 6月1日、9時5分訓練場にて入校式。われわれはこの日晴れて海軍二等飛行兵曹に任官した。私の学校での配属先は第12区隊(内火隊)で、1班から8班までに分かれ、構成班員は8名の編成となっていた。この区隊は全員美保空出身者で編成されていた。

 任務は、特殊潜行艇、甲標的丁型「蛟龍」の搭乗要員。専門分担は内燃機関の講習で、当初6月から7月の2ヶ月間が予定されていたが、後日1ヶ月期間延長された。「蛟龍」は開戦時、真珠湾に投入された特殊潜行艇甲標的甲型(搭乗員2名)の改良型である。訓練は実習がほとんどで、座学の教本は赤表紙の極秘扱い、全教本は連番が刻打されており厳重保管の義務が附され、各専門の将校が担当し、教育を受けた。私は内火隊(内燃機関担当)に配属されたが、他に、電気隊、水雷隊、通信航法隊とそれぞれ区隊が分かれていた。ここで一人前の搭乗要員としての教育と訓練を受けることになる。

 学校正面入り江に係留された3,000トン級、伊152号潜練習艦を教材に乗船種々の実戦訓練を受けた。また、校庭の南側海岸寄りに「蛟龍」と「海龍」(S艇)の実物教材が置かれていた。7月、学校沖合に潜水艦伊58潜が停泊、隣接の回天基地から多聞隊「回天」6基を搭載、南方洋上に出陣していった。武運あれと祈る。

 7月下旬に入ると、教務訓練もほとんど進まず、その頃になると防空対策の強化、そして防空壕作業に明け暮れる日課となる。8月6日、新型爆弾が広島に投下されたことを10時頃知らされた。8月9日、長崎を新型爆弾が見舞ったことは知らされなかった。

 8月15日正午、総員訓練場へ整列をして放送を聞く。雑音がひどく、初めて聞く陛下の玉音は聞き取れないまま痛恨の涙で地に伏せた。終戦以来4、5日兵舎にあって指示を待つ。その間何もすることがなく、持参の日本刀を抜き、やたらと振り回してはやり場のない気持ちを鎮めていた。復員は22日頃から始まり、26日には終わりとなった。復員に際して一階級特進して、一等飛行兵曹に昇進した。(「回顧録」から抜粋)